東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。1993年トマティスメソッド音楽カウンセラーになり、アルフレッド・トマティス博士に出会う。
博士のプライベートレッスンを受けCAVインストラクターとしての勉強を開始。1997年、CAVインストラクターの資格をパリ本部にて取得。以来、博士の言葉を伝えるべく、多くの受講者の指導にあたっている。
トマティス博士から習ったこと
最少の言葉でシンプルに心を込めて伝える
「余計なことは言わない」それは自分で考えなさいということです。
何かを習う(勉強する)時、たくさんの情報がほしいと思ってしまいますよね!
博士が私に教えてくださったことは、最少の言葉だけだったのです。それが、心を込めて人に伝えるシンプルな方法なのです。
では、何に心を込めるのでしょうか?
相手の持っている個性(素材)を見つけ、その個性を引き出しながら、丁寧に伝えることが相手に対して心を込めることです。
そのためには、相手を正しく観察できることが大切です。
他人を観察するには、まず自分をしっかり解る必要があります。自分の動作、行動、言葉等のすべてを客観的に観察してみてください。今までほとんどのことを気づかずにやっているということに気がつきます。
人の動きは、多くの場合、生まれた時の生活環境の中でどのように暮らしてきたかで決定されているそうです。よほど意識しないかぎり、一度身につけてしまった行動を改革するのは難しいのです。
まずは細かく自分を観察するのです。その結果、今の環境に対してはたしてニュートラルに暮らしているかを見極めるのです。また、自分の周りの視野を広く、そして、すべてに立体感を持って暮らせているか?これが自分を知ることで、自分とのコミュニケーションの始まりです。
教える教わるということの原点はコミュニケーションです。自分の身体が整理整頓されていて初めて他人とのコミュニケーションがうまくいくのです。コミュニケーションがうまくいくと、相手の個性(素材)にたやすく気づくことができます。
コミュニケーションには音声が大切
次にコミュニケーションには音声が大切。人に物事を伝える時、その時に使われている音声によって相手が受け取ってくれる情報の量が違ってしまうということです。話し声にはそれぞれいろいろな響きが含まれているのです。声の高い低い、大きい小さいはさほど関係ありません。大切なのは、その場の雰囲気に合った音声であるということです。
例えば、幼稚園児に落ち着いた低い声で話しかけてもなかなか伝わりません。また、老人と話す時に高い声で話しかけても、多くの場合、うるさいと思われるだけです。大切なのは、その場の雰囲気に合った高さの音声(周波数)と響きということになります。
トマティス博士は「私たちの身体の中にたくさんある骨の振動が大切」と言っていらっしゃいます。この骨の振動(骨振動)を含んだ音を「骨導音」とします。
この骨導音は、相手の骨を振動させることができるのです。良いコミュニケーションとは、お互いにリラックスして骨導音を含んだ音声で会話することでお互いに伝わる情報量が多くなります。この骨の響きを相手に伝えることを博士はBone to Boneと言っていらっしゃいます。
深い呼吸とリラックス、聴き取りの姿勢
では、骨の振動を多く含むための声を創るにはどうしたら良いのでしょう?
深い呼吸とリラックス、そして、コミュニケーションに適した「聴き取りの姿勢」です。
聴き取りの姿勢から話を進めましょう!
まず肩幅と同じに両足を広げます。そして、まっすぐ立ちます(重心が後ろにいかないように気をつけて)。足ー骨盤ー背骨ー首の骨ー頭蓋骨。これが定まったら、縦(身体の中心線)のライン。
次に床に対して平行のライン。下から骨盤、鎖骨、両耳、両目の位置が大切です。
日常において決して無理することなく、リラックスした状態で良い姿勢を保っていられるようになったらしめたものです。
すべてはその人の身体の有り様によって始まるのだと思います。
たくさんのことを言っているようですが、この聴き取りの姿勢は身体にとって一番負荷のかかっていないニュートラルな状態なのです。それを様々な生活習慣によって変えてしまっているだけで、元々はシンプルなことなのです。
この姿勢がとれたら、背もたれを使わずに深く安定した形で椅子に座ってください。そして、腰の骨、背骨をゆるめ、その上に自然に首の骨、そして頭蓋骨が乗っている。決して顎を上げてはいけません。しかし、顎を引きすぎるのも駄目。身体のすべてに心地よい空間を持つことが大切です。この姿勢で会話をすれば、良い音声を創ることができます。
Bone to Bone
滑舌を良く、とやたらに口を動かしすぎる人がいますが、それは不自然です。ニュートラルとはほど遠い所にあるものです。これは勘違いです。
音(言葉)は立体ですから、骨の響きを伴った音声を相手の骨に伝える(Bone to Bone)ということは大切なことなのです。
話し言葉は相手の骨を振動させ、その振動によって相手はリラックスしてくれます。話している本人も自分の音声の振動を感じることでリラックスし、より話しやすくなります。これでコミュニケーションが成立です。
相手のすべてを受け入れる
相手の話を聴く場合は、相手のすべてを受け入れましょう。心を開いてすべてを聴いてあげましょう。そして、聴くと同時にしっかり観察するのです。すると、正しい答えが自然と導き出せるのです。自分の言葉(考え)を持たずに受け入れるのです。
身体の中をニュートラルにしておくことで内在されているすべての経験が総動員され、その結果正しい答えに自然にたどり着きます。持っているたくさんの知識はさらけ出すものではなく、正しい場所に整理整頓してしまっておけば良いのです。
身体をゆるめ、相手の話を心から受け入れるだけで、良いコミュニケーションがとれるのです。自分が話す場合、相手の話を聴く場合、どちらにしても耳をしっかり使って聴くことです。これが、教える教わるコミュニーションがうまくいく要なのです。
これが、アルフレッド・トマティス博士のおっしゃっている「人間とは自分に絶えず呼びかける天地万物の受信アンテナである」ということです。
多くを語らず、聴く、そして正しい答えを導く、素晴らしいことだと思いませんか?
「良い声とは聴く人の身体に快適な振動を与えられる音声です」