自分を愛するとは、自分の身体をやさしく使うこと。
そのためにポイントとなるのは、身体の動きをコントロールしている耳の位置です。
04号では、聴き取りの姿勢をとって耳を正しい位置に置くことで、自分の身体をやさしく使う方法を学びます。
目次
はじめに
自分の身体をやさしく使う(日原 美智子)
耳は身体の動きを司っている/右耳を優先耳にすると情報処理が速い/よい演奏に必要なのは楽譜を正確に読み取り繰り返し練習すること/身体意識を持つことが大切/トマティスメソッドは究極のボディコントロール/トマティスメソッドでやるのは一歳までのこと/あふれるまで待つことが大切/ハミングするだけで、すべてのことが調う/自分の身体をやさしく扱うことで身体意識が持てる/聴き取りの姿勢を保つことですべてがうまくいく/ナチュラルに動けるようになる/声は人格です
身体の中の空間感覚(森田 理恵)
楽器のお手入れ(村上 亜紀子)
身体をやさしく使う(木村 満壽美)
トマティスに出会って(樽家 泰子)
トマティスメソッドと出会って(高木 容子)
読者からの感想
この小冊子について
編集後記
はじめに
今号のテーマは「自分の身体をやさしく使う」です。「耳と声」つまり、聴くことと話すことに、身体をやさしく使う、ということがどのように関係しているのだろう、と思った方もいらっしゃるかもしれません。ところが、とても関係しているのです。「聴くこと話すこと」は、コンピュータの入出力のような単なる「情報の処理」ではありません。話し言葉は、リズムがあり、メロディがあり、まさに音楽です。聞き手はそれを受け取ります。お互いにとってより気持ちのよいコミュニケーションとは、その人本来の音色が奏でられていることです。それを生み出している楽器は身体です。ですから身体に意識を向けることがとても大事になってくるのです。なにげなく話していても、身体の中では、唇、舌、声帯、肺、横隔膜等を動かすいろいろなパーツが関わっていて、それぞれが必要な動きをして声が生み出されています。ボタンひとつ押せば声が出るといったものではありません。
そしてその身体の動きをコントロールしているのが、実は耳なのです。この働きを耳が存分に発揮してくれるためには、耳を正しい位置に置くことが大切です。つまり、頭(耳)の位置が正しく、姿勢が調っていれば、身体の各箇所の連携がスムーズになり、効率のよい動きに導かれるのです。まずは、「頭と身体を正しい位置に置く」、これが身体を適正に動かす大前提なのです。
この大前提がなされた上で、では、「適正に動かす」ということはどういうことでしょうか。熟練した演奏家は、演奏技術もさることながら、楽器の性質を熟知しています。それが美しい音色を奏でるための大切なポイントです。適正な温度や湿度で保管したり、入念に手入れしたり・・・。決して乱暴には扱わず、愛情を持って丁寧に扱います。私たちの身体も世界でたったひとつしかない楽器なのに、そのように認識することはあまりないと思います。例えば、「声が小さい」「相手に聞き返される」といった悩みがある時は、「お腹に力を入れて」とか「口をはっきりよく動かして」と言われたりしますが、想像してみてください。それを実行すると・・・、出てくるのは大きすぎたり、硬さのある声です。そこに柔らかさやまろやかさはありません。楽器を力まかせに扱ったら、乱暴な音しか出てこないことと同じです。声が相手に伝えるのは、情報とともに心です。身体に負荷をかけてしまったら、心は置き去りになります。「身体を適正に動かす」ということは、心と身体が一体になるように「やさしく使う」ということなのです。
そして、自分の身体をやさしく使うために必要なことは、「丁寧な観察」です。観察とは客観視です。何気なくやっていること、やってしまっていることを再度見直して改めたい時ほど、客観視が必要となります。また客観視は、自分の中が静かでないとできません。つまり、自分を客観視すること自体が自分の身体へのやさしさにもつながるのです。
観察によって、自分の身体の「部分」と「全体」を知る。身体のしなやかな連携がみえてくると、一部に負荷をかけて無理をすることは無駄なエネルギーを使うだけであることがわかります。
観察して、やさしく使う。これは、真摯に自分の身体と向き合うことであり、自分の思いを具現化してくれる身体への感謝であり、信頼でしょう。
そして、やさしさは、やさしく扱った身体からしか生まれないのです。