トマティスメソッドはハミングに始まりハミングに終わります。ハミングをし続けることで自分の中の静けさに出会えるのです。
03号では、ハミングの具体的なやり方と日々続けるコツを学びます。
目次
はじめに
自分の中の静けさに出会う(日原 美智子)
ハミングに始まりハミングに終わる/骨が振動することで届きやすい声になる/ハミングは自分の骨の響きを感じるためのトレーニング/ハミングの具体的なやり方は?/ハミングを毎日続けているうちに自分の中の静けさに出会えた/五感すべてが変わった/ハミングするというのは、自分を観察すること/心地よいハミングを見つけることが大切/子守唄はハミング/誰の声にでもあるハミング(骨導)を意識的に使うことで静けさに出会える
私の静けさ(森田 理恵)
自分の身体を明け渡したとき(村上 亜紀子)
身体と心の声(木村 満壽美)
通「役」者にマイクもヘッドフォンもいらない(冠木 友紀子)
ハミングのもたらす静けさ(東 優子)
耳と聲の本プロジェクトの原点(宗形 憲樹)
02号の感想
この小冊子について
編集後記
はじめに
昨今、私たちは、手軽で便利なコミュニケーションツールを手に入れ、ヴァーチャルな世界がますます進んでいます。その恩恵に浴する一方、なにか身体が置き去りにされてしまっている感も否めません。こんな時代だからこそ、これからは、より自分の実体を感じることがとても大切になってくるのではないかと思います。
最近、自分の律動を感じることはありますか?スポーツや特別なことをした時ではなく「平常時に」です。実は、いつでもどこでも感じ取れる方法があります。それは、声の振動です。小さい頃、お父さんの大きな背中や、お母さんの温かい胸の中で、安心感とともにその振動を感じたことがあったのではないでしょうか。この振動が、声の響きの元なのです。自分の声の「最小の響き」を、自身の背骨で感じてみる。ここで大事なのは、「最小の」ということです。背骨をやさしく触っていく感じです。この繊細な感覚で、身体の本来の律動を感じ、身体を観ていく。身体の中心にあって、大黒柱のような存在の背骨の振動を感じるということは、自分のスタンディングポジションを感じているということです。その感覚があれば、揺れてもまた元に戻れる。そして、その起点があれば、他者とも適切な距離感を持ってコミュニケーションができるのです。自ら開発した聴覚と発声トレーニングを通して、博士が一貫して伝えているのが、「自分の声を聴く(感じる)こと」なのです。「自分を知らずして他者を知ることはできない」と。
自分の律動を感じてさえいれば、例え大きく乱されるようなことが起こっても、必ずまた本来の自分のリズムに戻ることができる。戻る場所を知っているかいないかでは、結果に大きな違いが出てくることでしょう。
そして、「最小の響き」は、あたかも一滴のしずくから生じた波紋が湖面に広がっていくように空間を伝播していきます。この時、心身は余分な力が抜けて、非常に穏やかな状態にあります。これが、「自分の中の静けさに出会う」という感覚です。この内なる静けさは、他者とのコミュニケーション、特に「相手を聴く」際の大切な条件です。なぜなら、「聴く」は英語でlisten to〜。何かに向かう(to)ということです。聞く(hear)と異なり、そこには「聴きたい」「得たい」という主体の意思があります。言い換えれば、全面的にそれを迎え入れる、ということです。判断せずにまず迎えいれる。そのためには、フィルターがかかっていない澄んだ状態であること、つまり、静かでなければ、成立しないのです。
失ってきた何かを取り戻すかのように、昨今、本やセミナー等による、「聴き方」のレッスンがはやっています。他者の話していることをどのようにして聴くかという技術的な方法も必要ですが、むしろ自分の中が静かであることが、他者を誠心誠意受け入れて聴くための大切な準備です。
「自分の声の響きで、自分の律動と静けさに出会う」
ハイスピードでめまぐるしく変化し続ける今、私たちにとって、とても必要なことのように思えます。