どうすれば自分の言葉が相手に伝わり、共感してもらえるのでしょうか?トマティスメソッドでは、コミュニケーションを「共振」=「自分の声で相手の背骨を振動させることで、言葉が伝わり、共感を生む」ととらえます。
05号では、相手の心に届く声を出すにはどうしたらいいかを学びます。
目次
はじめに
共振から共感が生まれる(日原 美智子)
言葉が出るかどうかはリラックスしているかどうか/聴き取りの姿勢で深い呼吸をすると、言葉が降りてくる/緊張=自我/良い姿勢は自分への信頼感の表れ/聴き取りの姿勢で相手を受けとめれば、心を開いてくれる/すべてを受け入れれば、否定の言葉は出てこない/考えて整理整頓された状態が自分の中にあることが大事/相手の声をしっかり聴くと自分の声は自然に変わる/話の内容によっても音声が変わる/余計なものがない時に自然な声になってくる/聴きやすい声には一定感がある/息の流れを意識する/響きは空間を拡げる/共振=共感/相手の心拍と呼吸を受け入れる/日々を淡々と生きる幸せ
オリンピックを観戦しながら考えたこと(森田 理恵)
共振=共感の場を共に(村上 亜紀子)
コミュニケーションとしての音楽(木村 満壽美)
「共振」と「共感」は人が人として生きていく元である(二村 典子)
スピーチを通しての心の交流(梶谷 久美子)
読者からの感想
この小冊子について
編集後記
はじめに
今号のテーマは「共振から共感が生まれる」です。01号から04号までは、よりよいコミュニケーションのために何よりも大切なことは、受信体である自分自身をまず調えること、すなわち、「自分を聴く」ことについての話でした。そのために必要な条件は、①深い呼吸、②リラックス、③聴き取りの姿勢ができていること、そしてその上で骨導ハミングを聴くことでした。いわばこれはすべて、「自分との対話」です。これができてはじめて、他者とのコミュニケーションが成立します。今号はいよいよその領域に入ります。
トマティス博士は「身体は楽器である。その楽器が気持ちよく鳴ることで、相手の楽器も鳴る。これが共振であり、共感につながる」と表現されていました。
この文章が伝えるイメージ通り、ここには優しい空間が存在しています。自分の楽器が気持ちよく鳴る、という状態は、声に骨導ハミング(響き)がともなっているということです。この時、心身はリラックスしているので、骨導ハミングは空間を伝播します。このプラスでもマイナスでもないニュートラルで静かな振動が、相手の楽器をも優しく鳴らすのです。これが共振です。もし力ずくの振動だったらどうでしょう。ボリュームは大きくてうるさいばかりで、自分もやがて疲れ果てるし、相手の楽器も凍りついてしまうかもしれません。共振するには、まず自分が優しく振動していることが条件のようです。それが自分のみならず相手を安心させる。この安心感の元に、よいコミュニケーションが生まれます。
共振は、優しい空間で生まれ、そしてそれが今度は、お互いのコミュニケーションを促す土壌となるように思います。
コミュニケーションはよくキャッチボールに例えられます。実際のキャッチボールでは、最初の投球でお互いを知り、そして次はお互いがキャッチしやすい距離・スピードで投げる。キャッチボールを続けるために、相手の球は全力でキャッチする。こちらが暴投した時は、そのボールを拾いにいく相手の姿を見て、今度こそは届く球を、と思う。―ここには、気持ちよくキャッチボールを続けたい、という共通の思いからくる、自分でも気づかないうちに働いている配慮、思いやりがあります。
コミュニケーションのベースに置くのも、まさにこの配慮ではないでしょうか。前述の共振の場を作るのもその一つですし、キャッチボールの球と同様、まさに、相手が苦労せずにキャッチできる声で話す、ということもその一つです。コミュニケーションはもちろん内容が大事なのですが、それ以上に大切なことは、それを運んでくれる音声に意識を持つことです。内容がよくても、聴きにくい音声では、相手に届く情報は減じてしまいます。キャッチしやすい声には、声の高さ、話すスピード、その空間に合ったボリューム、息の流れetc …、さまざまな要素が関わってきます。今号ではその具体的な話も語られます。そしてそれはすべて、自分の声を普段から「よく聴く」ことで調整の精度が高まるのです。
トマティス博士は「言語は見えない手足となって、いろいろな意味で聴く人に触れる」とも述べています。音声は振動ですから、物理的に周囲へ影響を与えています。ある研究によると、暴力的な言葉は、赤ちゃんの聴覚の発達に影響を及ぼすそうです。言葉の意味がわからない分、その言葉に伴う強烈な振動や粗野なリズム、不適切なボリューム等の不快さは、より直接身体で受け止めることでしょう。身体の調和を乱す音を聴きたくなくなるのは、当然のことです。
「大切なことは目に見えないんだよ」―これは『星の王子さま』(サン=テグジュペリ作)の中の言葉です。トマティスメソッドでは、聴覚トレーニングの音材に『星の王子さま』を使用していますが、これもトマティス博士からのメッセージだったのかもしれません。
目に見えないものこそ、大切に優しく届ける。そこに誠実な共振が起こり、共感が生まれるのだと思います。